私は片側完全口唇口蓋裂の息子を持つ一児のママです。長い妊活生活を終え、初めて授かった大切な命。誕生を首を長くして待っていたある日、お腹の中の赤ちゃんに『口唇口蓋裂』という先天性疾患が発覚しました。
すぐに産むと決断できる親御さんも居れば、どうしたらいいのか沢山悩む親御さんもいます。
私と夫は後者でした。そんな私が息子を出産すると心を決めるまでのお話です。
ある日、突如疾患が発覚
約2年の妊活生活を終えて、やっと授かった命、吐きつわりで苦しい思いをしていた中でも、産後の赤ちゃんとの生活、子供が大きくなってからの生活を夢見て必死に赤ちゃんを守っていた妊婦期間、赤ちゃんの性別が男の子と分かり、「どんなお顔かな?」「どんな物が好きな子かな?」「名前は何にしようかな?」と浮かれていた毎日。
そんなある日、妊婦健診で超音波検査をした後、神妙な面持ちで先生に呼ばれました。
いつもと違う空気と先生の顔で、"嫌な予感"がして、、、全身に変な汗がダラダラと流れました。
診察室で夫と椅子に座り、先生は撮ったエコー写真を裏面にして机に置きました。
いつもならサラッとエコー写真を置いて「これはお顔だね」「これは足だよ」と教えてくれる先生なのに。。私はその空気感に耐えきれず不安で涙を流してしまいました。
夫に背中をさすられ、先生には「急ぎでは無いので、日程を変更しますか?」と聞かれましたが、何もわからない不安な気持ちのまま過ごすのは無理だと思い、説明をお願いしました。
先生から言われた疾患名は『口唇口蓋裂』というものでした。
口唇口蓋裂というのは、500人に1人の割合でお腹の中の赤ちゃんが成長する過程で体を形成する途中に、なんらかの原因で鼻と口が繋がってしまう、唇や口の中に亀裂が入ってしまう、というものです。
妊婦の飲酒や受動喫煙、葉酸不足など様々な説がありますが、ハッキリとした原因はまだ分かっていません。
今は超音波検査でリアルなお顔が見れたり、羊水検査で赤ちゃんの先天性疾患が発覚したりしますが、口唇口蓋裂の度合いは赤ちゃんが産まれてからでないとハッキリ分からない為、治療方法などほとんどが産後に決まります。
そして、口唇口蓋裂の赤ちゃんには合併症のリスクが高く、口唇口蓋裂だけじゃなく、他の臓器の病気やダウン症などを合併して産まれてくる赤ちゃんもいます。
先生は「今の技術は進歩していて手術で凄く綺麗になるよ」と言ってくださったものの、自分のお腹の中に居る赤ちゃんに疾患があると分かった衝撃が凄く、その日は1度帰宅し、また後日詳しい話や担当してもらう小児科の先生などを紹介してもらうことにしました。
帰宅後、夫婦の会話
帰宅してから、私は布団に潜り込みお腹を抱きしめるように抱えながら号泣しました。
「どうしてこの子なの?」
「何がいけなかったの?」
「どうしたらいいの?」
お腹の子はとてつもなく可愛いし、愛おしい。でも産んでから待っている治療をさせてしまうのは心苦しい、産んだとしても奇形で産まれた赤ちゃんを愛せるのか、守りきれるのか、色んな感情で溢れ、ただただ泣くだけでした。
数時間そのまま泣き続け、携帯を取り出し、調べられること全て検索しました。
『口唇口蓋裂 顔』
『口唇口蓋裂 経過』
『口唇口蓋裂 いじめ』
などこれから起きること、起きるかもしれないことなど思いつく限り指を走らせ頭に入れようと必死でした。
自分の思いつく言葉全て調べ尽くした後、やっと夫と顔を向けて話すことが出来ました。
「あなたはどう思ってる?」
産むことを拒否されるのも怖い、産んでくれと言われるのも怖い、そんな状態で聞ける言葉はそれが精一杯でした。
夫は少し間をあけて「まだ分からない」と言いました。
夫も私と同じ、何も分からない、どうしたら良いのかも分からない、そんな状態だったんだと思います。
その日はほとんど口をきかず、ただ同じ部屋で同じ時間を過ごす時間が続きました。
自問自答の日々が続く
それからの数日間はほとんどの時間を検索にあてました。何度も同じ言葉を調べ、何度も同じ文章を読み、何度も何度もお腹を抱きしめながら泣きました。
妊娠中のマタニティブルーも重なっていて、どんどん不安な気持ちが溢れ、時には
「お腹の赤ちゃんを産んでも頑張れるか分からない…」
「でも赤ちゃんと離れたくない…」
「いっそのことお腹の赤ちゃんと一緒に消えてしまおうか…」
とまで考えていました。
もし産んで手術をして、傷口が綺麗になったとしても、何度も何度も手術や治療で痛い思い、怖い思い、苦しい思いをさせて、頑張らせなければいけない、という状況も嫌で、産むことの踏ん切りをつけることが出来ませんでした。
「私が産んだら赤ちゃんは苦しい思いをする」「でも会いたい」「でも痛い思いをさせてしまう」いくら考えても、自分に問い掛けても無限ループの状態でした。
最終決断。。
赤ちゃんの疾患が見つかってから、産むか産まないかを決めなければいけない日まであと2日となった時、たまたま目に止まった、『口唇口蓋裂の子供を育てているご両親の動画』を某動画サイトで拝見しました。
そこには、手術を怖がって泣く子供の姿、痛みを乗り越えて元気に過ごしている子供の姿だけじゃなく、親御さんの素直な気持ちや、子供の手術を前に胸を痛めている姿など、口唇口蓋裂を持った子供が居る家族のリアルな現場を知ることが出来ました。
私と同じく、妊娠中にお腹の中の赤ちゃんの口唇口蓋裂が発覚し、私と同じ様に悩んでいたというお話もありました。
その動画を見るまで、私はすぐに産むと決断出来ないこと自体が、赤ちゃんを心の底から愛せていないということなんじゃないかと自分を攻めていました。
でもその動画を見て、『親だからこそ、赤ちゃんを思って悩む』ということに気付き
「私はこの子が大好き!」
「私はもうこの子の親だ!」
「私がこの子を支える!」
「この子に何があっても絶対に守る!」と、前向きな気持ちになり、気持ちが固まった気がしました。
その後すぐに夫にもその動画を見せました。すると夫も「俺も頑張れる気がしてきた」と前向きな気持ちになり、お互いに『この子のために頑張ろうね』と言い合える様になりました。
最後に
正直私は、今妊娠中で赤ちゃんに疾患が発覚し悩んでいる親御さんに「絶対大丈夫!」「産んで大丈夫だよ」なんて口が裂けても言えません。
私の子供の場合は口唇口蓋裂以外の疾患は無く、唇や上顎のみの手術とその後の発音などの部分を気にかけて過ごす、という結果でしたが、前記した通り、口唇口蓋裂は合併症を持って産まれてくる赤ちゃんもいます。
もし他の臓器や何かの病気を合併していた場合は今の私達よりもずっと大変な思いを親御さんも赤ちゃんもすることになります。
なので、「大丈夫だよ!」なんて簡単に言えません。
でも、ひとつだけ伝えたいのは『今悩んでることは悪いことじゃない』ということです。大切な赤ちゃんだからこそ、赤ちゃんが可愛くて仕方ないからこそ時間をかけて考えているんです。この記事を見つけてくれた、同じ悩みを持つ親御さんはきっと、自分を責めて苦しくなっている時だと思います。
お腹の中の赤ちゃんを必死に守ってきたママでも、飲酒喫煙などお腹の中の赤ちゃんに良くないことを沢山していたママでも、赤ちゃんが口唇口蓋裂になるかならないかは分かりません。産後沢山頑張らなければならないのは、赤ちゃんだけでなく、それを支える親御さんもです。
赤ちゃんをしっかり守り、支えられるか、産んだ後の大変さをしっかり知り、沢山考え、決断して頂けたらな、と思います。次は、出産編を綴ります。