母乳育児と粉ミルク育児の理想と現実

2019年7月29日 更新 FAMILY
母乳育児と粉ミルク育児の理想と現実

母乳育児、粉ミルク育児

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皆さんは赤ちゃんがお腹を空かせて泣いていたら次に何を飲むと想像しますか?

お母さんのおっぱいに一生懸命吸い付きながら母乳を飲む姿ですか?
はたまた哺乳瓶で一生懸命ミルクを飲む姿ですか?
育児が始まるにあたってどういう風に育てたいか、または状況によりどうするべきかなど様々な考えがあるかと思います。


私自身は、妊娠当時、育児をするにあたって特に「母乳」や「粉ミルク」に関し特にこだわりはありませんでした。

しかし、出産し子育てが始まるといつの間にか強いこだわりを持つようになっていて、それによって沢山のことを学ぶきっかけに繋がりました。そこで今回は、私が経験したことに沿って粉ミルクや母乳に関して現在わかっていることなどを紹介できたらと思います。

出産前に決心していた粉ミルク育児

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赤ちゃんが小さな口で一生懸命ミルクを飲む姿は本当に可愛らしいですよね。赤ちゃんから漂う甘いミルクの匂い。私は独身時代に親戚が産んだ赤ちゃんのおっぱいを飲む姿や香りに何度も何度も癒されていました。


私自身が妊娠し出産が近くなると、考え始めたのは母乳育児か粉ミルク育児か、はたまた混合育児か。母乳といっても出産していない状態では本当に出るかどうかも未知な世界。特にどちらで育てるなどこだわりは持たないようにしていたので、粉ミルクや哺乳瓶を用意しつつもあとは出産してからしかわからないことだと思っていました。

ママ向けアプリのコラムでは母乳育児の素晴らしさ、母乳の完璧さなど、母乳の記事が大量にあり、世の中は熱狂的と思えるほど母乳育児がブームでした。



私の親戚の赤ちゃんは母乳で育てられていたのですが、表現としては母乳でしか育てられない状況に近い感じでした。
彼女の子供が通っていた保育園では粉ミルクを与えられても飲める量はやっと20~30ml程度だったので(これはだいたい生後2~3日の赤ちゃんの一度の哺乳量)母親と離れ寂しい思いをしていながら、長時間十分なミルクも飲めないなんて、働いている母親も心配でたまらないでしょうし、赤ちゃんも辛いだろうな…と感じたのを覚えています。

また、たまに会えても睡眠時間も十分に取れずに疲れ果て眠りながら授乳する姿を目の当たりにしていたので、たまに私が一緒にいる時ぐらいミルクをあげるのでも手伝えたらな…と、もどかしい気持ちにもなりました。



母乳の良さは知ってはいましたが、母乳しか飲めない赤ちゃんはいわゆる「哺乳瓶拒否」というこだわりを持ってしまうと、搾乳した母乳を哺乳瓶で与えることもできない状況になるのだと知った私は、母親と離れられず夫や親、シッターや預かりサービスなどのサポートも安心して受けられない状況になってしまうのか、と厳しい現実を目にしたようでした。

この現実を知った私は、いつか自身に赤ちゃんができたとき、例え母乳が十分に出ても粉ミルクを利用し休息を取りながら育てようと、心に誓いました。


いくら母乳神話のコラムを読もうと、そんなものは机上の空論であり母親の負担を無視しているとしか思いませんでしたし、もし自分に何かあったとき、どうしても休まざるを得ないときに「休めない」といった判断をする自信はありませんでした。

出産後に褒められた母乳。少しずつ変わっていった意識

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今まで心配していた気持ちとは裏腹に出産後すぐに沢山の母乳が出るようになりました。

私の住んでいる地区では高齢出産するママが多く、検診、出産した産院では不妊治療などに力を入れていた産院だったので、不安に感じたことや相談をしても20代だから大丈夫、まだ若いから大丈夫と言われ疎外感を感じたことがありました。

出産しても同じ産院のママさんたちは母乳の出が思わしくない状態の人が多く一生懸命マッサージやらの工夫をしているようで、先生や助産師さん看護師さんから、「やっぱり若いから母乳の出が違うわね」「母乳がたくさん出て恵まれているわね。」と、とても褒められました。


沢山生成される母乳、産前は考えたこともなかった胸の張りと痛み。この張りと痛みを緩和させるためにも少しでも多く母乳を吸って欲しい。粉ミルクを与えたいと考えてはいましたが産後すぐはそんな余裕もなく自分の体と向き合うように母乳を与えていました。

そして先生やらがここまで褒めてくれる母乳。今まで読んでいた母乳神話のコラムなどは医学的にも根拠があることだったのかと、空いている時間に調べるようになったのです。

母乳神話の根拠は?

母乳に関して調べるとすぐに沢山の利点がわかりました。まずは「ラクトフェリン」という感染予防機能の備わったタンパク質が生後0~5日頃の母乳に特に多く含まれること。

このラクトフェリンは牛の乳にも含まれていますが牛の初乳に比べ、人間の初乳にはおよそ10倍も多くラクトフェリンが含まれていることがわかっています。
また、母乳を与えるときに必然と行う肌を触れるようなスキンシップではオキシトシンというホルモン(別名 幸せホルモン)が分泌され、母子ともにいい影響を及ぼしてくれる。(授乳以外で行うスキンシップでも分泌されます。)

そして母乳栄養児のほうが人工乳栄養児に比べ肥満リスクが低い、小児、および成人での糖尿病の発症リスクが低いとの報告もあるということが分かったのです。
「平成17年度乳幼児栄養調査」資料:厚生労働省

調べて自信がついていく自分の母乳

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初めての育児、正解も不正解もわからないことだらけだったので私はしばらく母乳育児で赤ちゃんの性格やサイクルを観察するようにしていました。

おむつの回数や授乳間隔、睡眠時間に生活サイクル。赤ちゃんの泣き声や一定の時間が経つと胸が張ってしまい強い痛みがあるため、搾乳やマッサージで解消することもありましたが、赤ちゃんに飲んでもらうのが一番均一に痛みも解消できたので粉ミルクを与える身体的余裕もありませんでした。


母乳が出なくて悩んでいる沢山の母親がいると知った以上、母乳が出ることはとても恵まれているのだと、産前、散々目に触れてきたのにも関わらずようやく母乳に対しての情報を前向きに取り入れるようになりました。
この頃の私は無意識のうちに選別していたのか、おなじような内容のコラムや情報を何度も読むことで自分の母乳に対し人体の素晴らしさ、本能といった、赤ちゃんに対し自分にしか与えられないかけがえのない物といった自信を抱いていました。



現在では母乳神話と一部で熱狂的といっていいほど母乳の栄養を信用している風潮がありますが、私自身も、この頃はそのような状態に近かったのではないかと思います。

儚い赤ちゃんの育児。不安しかない育児生活を慎重に適切にすごしていくために赤ちゃんにとって良いとされるものしか取り入れたくないと、次第に柔軟性を持った考え方ができなくなっていきました。

急激なホルモンの変化や新しい変化があるために神経質になりやすいとされる母親は、ネットに大量に溢れたこれらの情報に触れることで、柔軟性を欠いて受け捉えてしまいがちであるのではと、この頃の自身の経験を通じても感じました。

母乳神者だった私が粉ミルクを与えられるようになるまで

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母乳に対し依存するように信頼を置いていた私でしたが、息子が生まれて数ヶ月、親知らずを抜くことになってしまったのです。

親知らずを抜くのは初めてで、抜歯後3日間抗生剤の服用をしなければならないと先生から説明を受けました。抗生剤は物にもよりますが、なるべくなら授乳は避ける方がいいとのこと。


この頃には月齢が進んでいたので息子の哺乳量は徐々に増え、胸の張りも緩和されていたので、私は薬によって赤ちゃんに負担をかけないためにも粉ミルクの利用を検討することにしました。

いざミルクを与えようにも原材料など、素人が見ても調べてもわからない成分も多く疑心暗鬼な感情は払拭できませんでした。

そして何よりパッケージに書かれていた「赤ちゃんにとって母乳は最良の栄養です」と記載された文言が私の気持ちを大きくざわつかせました。母乳が最良ならば、最良の栄養を与えずに行動してしてしまうことは母親のエゴなのかもしれない。と、心の突っ掛かりのような、小さなわだかまりを抱いてしまったのです。

「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」という文言

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「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」この文言は何のために、誰のために向けて発信されているものなのか。

捉え方によっては母親を追い詰めるようなこの際どい文言。私自身も小さなわだかまりを抱いてしまい、粉ミルクをわだかまりなく与えたいと、調べることにしました。

調べていくうちに、今の母乳神話といった風潮とは逆に、一昔前では粉ミルクがブームとなっていて、それによって起きた様々な出来事、そして今の育児に大きく影響した事実を知ることになりました。
1960年代、外国製を含む粉ミルクを製造する会社が東南アジアや発展途上国に進出し、世界的に粉ミルク育児が浸透していきました。

当時、アメリカでは粉ミルクでの育児が主流で、アメリカ育児に憧れを持った日本の母親が影響を受け、粉ミルク育児は日本国内でも大ブームとなりました。
その影響で1960年代には日本国内で70%以上あった母乳育児率が、わずか10年後の1970年代で30%(都心部などでは20%程度)にまで激減してしまったのです。


母乳で育てると病弱で頭が悪くなる。母乳に比べ粉ミルクの方が赤ちゃんに必要な栄養バランスが優れている、などといった母乳育児自体を否定するような噂も流れるように。

まさに今とは真逆である粉ミルク神話ともいえる事態だったのです。

強引な販売方法によって起こってしまった悲しい事実

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「粉ミルクは完璧で母乳よりも優れている」といった印象を製造業者は消費者に強引に植え付けていきました。産院や病院に職員を派遣、人工乳による育児を母親に過剰に推奨し起こった大ブームの結果、深刻な問題へ発展してしまったのです。


(1) 母乳分泌に必要な乳児による乳房への吸てつの刺激が、粉ミルクの存在によって阻害されてしまい本来なら、母乳が出たはずの母親の母乳分泌が不十分になってしまったこと。
(2) 発展途上国など、衛生状態の良くない水で作られた粉ミルクを飲むことで病気や死亡率を大きく高めてしまったこと。
(3) 経済的に貧しい国や人が粉ミルクの購入を継続するのが困難になったため過度に薄めて与えることで乳児の深刻な栄養欠乏が起こってしまったこと。



今とは違いネットも普及していないので情報を手に入れにくいこの時代、誤った利用方法や衛生や栄養などに関し乏しい知識、ずさんさによりとても多くの赤ちゃんが被害に巻き込まれてしまいました。


一連の事態を重く捉えた世界保健機関(WHO)と国際連合児童基金(Unicef)によって粉ミルクの販売の仕方、宣伝方法などに関する国際基準(WHOコード)が制定され正しい利用の仕方、また利用することで起こる弊害などが明らかになったのです。

そして、この「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」といった文言が明記されるようになったのです。


以下、引用・参考元
母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(WHOコード)違反について
乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン

大切なのは「粉ミルクを正しく利用する」ということ

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今回、小さなわだかまりを抱いた「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です。」といった文言ですが、この目的は母親が第一に望んでいる赤ちゃんの安全のために作られた重要な言葉だったと知り、私が表面的に物事をとらえてしまったことは、どれほど無責任なことだったのかと深く反省しました。

今回の経験からこれからは物事の言葉の意味だけでなく、意図を考えられるように気を付けていこうと思うきっかけに繋がりました。

粉ミルクの悲しい過去を知りましたが、だからといって粉ミルクが決して悪い物なわけではありません。

赤ちゃんにとって成長に必要な栄養を含んでいることは確かですし、なにより粉ミルクの存在のお陰で母乳分泌が不十分だったり、薬の服用といった件のように、母乳を与えることができない状況にある母親でも、赤ちゃんを健康に安心して育てられるようになったのです。
粉ミルクの研究は日々進んでいて母乳に近い、良質な栄養が含まれています。

大切なのは赤ちゃんにとって適した選択

母乳は赤ちゃんにとって素晴らしい栄養源です。しかしながら、母親の血液であり、分泌物であることから、母体の健康状態や摂取したものが直接影響されてしまうというとても注意が必要な面を持っています。

大人と違い、内臓機能が未熟な赤ちゃんは薬やアルコール、ニコチン等の成分を分解するのが不十分なため、嘔吐や下痢といった症状が出てしまったり、母体が服用した薬などで一見影響がなかったと思っていても赤ちゃんが大きく成長してから生えてくる歯(永久歯)がグレーなどに着色…なんてことが母乳によって起こることが実際にあるのです。また、母親の感染症も母乳から移行してしまうこともあります。


大切なことは母乳じゃなきゃいけない、粉ミルクじゃなきゃいけないなどと二者択一するのではなく、母乳移行し赤ちゃんに悪影響と考えられるものを摂取したり、母親の生活環境や母乳が出にくい、などといった個人の状況によって柔軟に判断し、選択することが大切だと考えることができました。

そういった工夫は手抜きでもエゴでもなく「赤ちゃんにとって」適した選択なのではないでしょうか。